大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和25年(れ)946号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人鶴和夫の上告趣意及び弁護人佐々木清綱の上告趣意は、夫々末尾添附のとおりである。

弁護人鶴和夫上告趣意第一点並びに弁護人佐々木清綱上告趣意第一点について。

原判決摘示の事実はその挙示の証拠により十分認めることができる、原判決にいわゆる、「場合によっては殺傷沙決に及ぶも止むなしと決意し、」又は「成行によっては相手を殺傷することも辞せざる意図の下に」とあるのは、被告人等が右決意したときにおいて既に相手方を殺害することあるべきことを期していたことを意味するもので原判決は被告人等が相手を殺害する犯意を以って判示行為を敢行した事実を認定判示したものであること原判文自体に徴し明らかである、してみれば原判決が被告人の所為を殺人罪及び殺人未遂罪に問擬したのは正当であり又原判決は殺人罪同未遂罪の判示として欠くるところはないから何等所論のような違法はなく論旨は何れも理由がない。

弁護人鶴和夫上告趣意第二点及び弁護人佐々木清綱上告趣意第四点について。

原判決摘示の事実はその挙示の各証拠を綜合すれば優にこれを認めることができるし、又右各証拠から判示の如く認定しても何等実験則に反しないから、論旨は何れも理由がない。

弁護人鶴和夫上告趣意第三点について。

原判決が第一審相被告人谷水昭三に対する検事の昭和二三年四月一三日付、同月一日付、並びに同月一五日付の各聴取書の供述記載及び原審相被告人森国重義に対する検事の昭和二三年四月六日付聴取書の供述記載を証拠としたこと、右谷水、森国は何れも昭和二二年一〇月二四日逮捕せられ、同月二七日何れも勾留状を発せられたものであって、右逮捕以来谷水が昭和二三年四月一三日付聴取書の供述をする迄に約一七三日間森国が同人の右聴取書の供述をする迄に約一六〇日間拘禁されていたこと、及び谷水、森国の右各聴取書には、右両名等が被告人川添と殺害行為を共謀した旨の右両名各自の犯罪行為に関する自白の供述が記載されていることは所論のとおりである。しかし、本件記録に徴すれば本件は、彼此双方多人数が敵味方に別れ相闘争したいわゆる博徒の喧嘩にかかる事案であり、第一審では五名の者が被告人として起訴され関係人もその数多く、しかも谷水、森国等は、逮捕当初は極力本件犯行は右両名のみの犯行であると主張し、いわゆる親分たる被告人川添との共犯であることを秘匿しようとつとめていた経過が明らかであるから、かかる事案において、検察官が事案の真相を明らかにするためには、相当の日数を要するものといわなければならないので拘禁後一六〇日乃至一七三日後の自白といえども必ずしも、刑訴応急措置法第一〇条第二項にいわゆる不当に長い拘禁後の自由であるとはいえない(昭和二四年(れ)第二三六五号同年一二月三日第二小法廷判決参照)してみれば所論各聴取書の供述を証拠とした原判決には何等違法はない、論旨は理由がない。

弁護人鶴和夫上告趣意第四点について。

原判決摘示の事実はその挙示の証拠によって認めることができる。原判決は多数の証言その他を綜合して、判示事実を認定したもので綜合された各証言が皆完全に一致することはあり得ないのは当然である。しかも、所論各証言の相異も、これによって判示事実を認定することが実験則に反するような矛盾ではないので原判決には所論のような違法はない。

弁護人鶴和夫上告趣意第五点及び弁護人佐々木清綱上告趣意第七点について。

共謀による共同正犯は、数人共同一体となり相互に手足となり共同の目的を遂行するものであるから、その一人から観察すると、他の共犯者の行為も、亦自己の行為と同視すべきものである。従って数人共謀して、各自同一機会に夫々各別個の人を殺害し、又は殺害しようとして遂げなかったときは、その共犯者の一人について見れば自己の時を接した数個の行為により同一機会に数名の各別の人を殺害し或は殺害しようとして遂げなかった場合と同視すべきであるから刑法第五五条の適用のあった本件犯行当時においては、殺人罪及び殺人未遂罪の一つの連続犯を構成するものと解するのを相当とする。してみればこれを一個の行為で数個の殺人罪及び殺人未遂罪の罪名に触れるものとした原判決は失当であるけれども原判決も、本件被告人の行為を結局一罪として処断しているのであって、被告人の利害に何等影響を及ぼさないから原判決を破棄する理由とならない。

弁護人佐々木清綱上告趣意第二点及び第五点について。

原判決は、被告人等数名が相手の者等を殺害しようと共謀し、夫々兇器を以って、相手と乱闘し、よって被害者数名に判示のような夫々数個の傷害を与えた事実を判示したもので、右の事実は挙示の証拠により認めることができることは前記のとおりである。してみれば共犯者のうち何人の行為によって与えたか不明の傷が被害者にあっても、その傷害も亦被告人等数名の共謀による行為により与えたものといわなければならないから、被害者芦沢正太郎の受けた傷害中右耳右側胸部刺創が何人の行為によって生じたものか不明であっても、これ等の傷害についても被告人等共犯者全員について罪責あること論なく、又被害者愛甲久の傷害中、前膊部刺創も亦被告人等全員の行為により生じたものというべく、そして右愛甲久が被告人等の与えた右下腹部刺創並びに前膊部刺創に基く失血のため死亡するに至った以上被告人の行為と死亡との間には因果関係の存すること明らかであり、原判決のこの点に関する証拠説明にも何等欠くるところはない。所論引用の判例は本件に適切ではない。よって論旨は何れも理由がない。

弁護人佐々木清綱上告趣意第三点について。

被告人川添等と所論土谷信義との間に本件犯行を行うについて、通謀のあったことは原判決挙示の証拠により優に認めることができる。所論は原判決の事実誤認を主張するに帰し上告適法の理由とならない。

弁護人佐々木清綱上告趣意第六点について。

所論は原審相被告人森国重義は犯行現場には行ったけれども何等犯罪の実行行為は行わなかったから殺人罪又は殺人未遂罪にはならないというのであるが、かかる事由は、被告人川添が犯行を実行したとする原判決に対する上告理由とすることはできないものであって論旨は理由がない。

以上の理由により、本件上告は理由のないものであるから刑訴施行法第二条、旧刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。

この裁判は裁判官全員の一致した意見によるものである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例